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『葬祭の日本史』

2004年06月28日

葬祭の日本史』(高橋繁行,2004年,講談社現代新書)

葬祭の日本史

よく本を仕入れる近所の書店には,例に違わず新書のコーナーがあります。ただ,このコーナー,ついこの前まで,養老猛司の平積みがびっしりと並んでいました。長さにして約2メートル……。ベストセラーとはいえ,あまりの無節操さに辟易して近寄らないでいたところ,近頃,その長さが1.5メートルくらいになりました。ちょっとは落ち着いたんでしょうか,「壁」ブーム。

そんなわけで,あまり事情は変わってないんですけど,多少近づきやすくなったので,新書のコーナーも覗いてみることにしました。

昨年公開された『ラスト・サムライ』が,日本人の心を捉えたのか,それとも今人気の大河ドラマ『新撰組!』の影響からか,巷はにわかに「武士道」ブームのようです。「武士道は日本人の心」みたいなコピーも普通に出てますよね。

ただ,私としては「ちょっと違うなぁ」といった印象です。「武士道」って,特定の身分にまつわる価値観を後付けで体系化したものみたいですから……。武士じゃない人まで「武士道」というのはちょっと恥ずかしい感じすら受けちゃいます。特に私の場合,先祖の一方は武士だったみたいですけれど,もう一方は農民(というか小作農)だったみたいですし,「武士道」とか言われてもぴんときません。

話を本題に戻しましょう。本書は,葬祭に関する日本の民俗史を扱っています。昨年,祖父が他界して,「穢れ」とか「弔い事」といったことについて考えるところがあったんですけれど,ちょうど良いタイミングで本書が出版されました。私の場合,本書の方が「武士道」よりも日本的な価値観を感じることができました。

なお,まだ出版されたばかりでタイトルが決まってなかったのか,Amazon のリンク先では『お葬式の近現代史』なる表題が掲げられています。出版時のタイトルは,『葬祭の日本史』です。

日本人は無宗教が多いなんて話をよく聞きます。私も,特定の宗教に帰依しているわけではないので,そんな話をする人にとっては,私も「無宗教」な人なんでしょうね。

けれど,日本の場合,宗教として体系化されてはいないものの,特有の価値観はあるように思います。例えば,「穢れ」のような概念は,あまり他で見ることはないんじゃないでしょうか。家にあがるときに,下履きを脱いだりするのはその典型のようですし,子供の頃「えんがちょ」(うちの地元では「えんぴ」と言っていた)なんて遊びがあったけれど,これも「穢れ」の価値観と結びついているような感じがします。

葬祭事というのは,その「穢れ」を扱う最たるものですから,日本的な価値観が凝縮しているところ言っても過言ではないように思います。つまり,葬祭を通じて日本的な価値観を垣間見ることができるような気がするわけです。

本書は,近代から現代に至るまでの葬祭事情や,葬祭を主宰する者に対する評価(「毛坊主」として賤民視されたり「聖」として敬われたりしたらしい),一般民衆の葬送の仕方から大富豪の葬式まで,とにかく葬式づくしです。葬式というと少しグロテスクで不吉な響きがありますけれど,そこには古くからある日本人の精神活動や死生観があって,日本社会の屋台骨を裏側から見るような感覚があります。

特に,筆者が主張しているところの,「葬儀屋は現代の毛坊主である」というくだりでは,日本文化は廃れたとか言われる現代でも(これを言っている人の日本文化は,大抵「明治文化」なんだろうけど),これがしっかり息づいている様子がよく分かります。

近頃,読み捨ての How to 本や実用書が蔓延している新書の類の中では,珍しく興味深く読める本でした。参考文献等の資料出典も豊富に掲げてあるので,もっと知りたい人への入門書にもなるかもしれません。

余談ですけど,祖父が死んだとき,私は,どうやって弔ってやればいいものか困ってしまいました。身内の葬式は初めてでしたし,互助会や葬儀屋の方々が要領よくテキパキと手続を済ませていくのに,ややもすると取り残されそうになっていたからです。

葬儀後しばらくの間,「自分はじいちゃんを弔ってやれたんだろうか」と心配だったんですけれど,本書を読んで今考えると,私がしたことは(決して形式的に十全ではなかったものの)ちゃんと弔ったことになっていたんだなぁ,と思ったりします。

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