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『介護入門』

2004年08月15日

介護入門』(モブ・ノリオ,2004年,文芸春秋)

介護入門

例によって,文藝春秋9月号で読みました。

芥川賞の選考基準がどんなものなのか,よく分かってないんですけれど,いくつかの候補作の中から,「相対評価」で決まっているのは確かなようです。当たり前っちゃ当たり前ですね。もちろん,他の文学賞よろしく絶対評価で「該当作品無し」という結果もあるんでしょうけれど。

そんなわけで,それが芥川賞にふさわしいかを判断するためには,受賞作品を読むだけでは不十分で,他の作品との「兼ね合い」もみなければなりません。あたしは,本作品しか読んでいないので,とりあえず芥川賞受賞作というのは抜きにして,純粋に物語としてのの感想を書いてみようと思います。

本作は,介護を扱った作品です。どこかで聞いたニュースでは,

麻薬中毒の主人公が,介護によって人間や家族に対する愛情に目覚める話

みたいな紹介があったけれど,こういう評価は部分を捉えただけといった感じがします。

主題は後におくとして,本作でまず目を引く点は,その文体だと思います。どの部分を取ってもいいんですけど,

YO,俺は豚どもの贋の涙を蔑み,祖母の長寿を支え続ける呪われた鬼になるぜ,朋輩(ニガー)。

みたいな文体。全文に亘ってこの調子ですから,読んでいるこちらも,読後はちょっと悪びれて,嗄れた人間になっている感じがします。一部の評によると,こういった一過性の表現はすぐに風化するといった批判があったけれど,介護といった多分に禁忌の残る繊細な話題をアイロニックに展開する,といった意味では,ある意味成功してるんじゃないかと思います。もしこの話題をまともな文体で綴るとしたら,きれい事しか書けないんじゃないでしょうか。

一方,内容全体を通してみると,どうしても退屈な印象が拭えませんでした。おそらく,物語全体がトピックを集めた箇条書き的な構成であるために,主題をうまく深化できなかったからだと思います。このことは,主人公の心の動きや,家族(家庭)が変化する様子を捉えづらいという点で顕著です。箇条書き的にしたのは,『介護入門』という入門書の体裁をとるために必要だったのでしょうか……ちょっと分かりません。

それじゃ,主題はなんなんだということになるんですけれど,やはり,生身の人間として対話することの重要性ということになるんでしょうか。本作では,「介護ロボット」「叔母」「蛍光灯」「ポケモンジェット」といった言葉と,「麻薬」「祖父」「土人的生活」といった言葉とがきれいに対置されています。著者が愛しているのは,もちろん後者であって,介護は後者に基づいてすべきといったことを言っているように思います。

さらに,こういった対置の仕方は,介護問題に限らず,人間同士のコミュニケーション一般にもあてはまるわけで,システマティックで無機的な人間関係に警鐘を鳴らしているようにも思えます。『介護入門』は「人間関係入門」の様相を帯びてくるというわけです。

なんか予備校の講義みたいですね。

ただ,こういう主題は,きれいに分類すると野暮になるし,主題自体,昔から言われていることだったりします。本当に主題がこれだけだとするならば,ありきたりのテーマを「介護問題」というネタで焼き直しただけだと評価されても仕方ありません。

私の場合,もともと「泥臭いモノに良さがある」とか,「当事者になることでしか体感できない事象がある」といったテーマが好きなので,無理矢理そっちの方向に引っ張って読んだのかもしれません。そんなわけで,主題を正確に捉えているのかと考えると,自信がなかったりするわけなんですが……。

芥川賞云々はさておくとして,全体的に冗長な印象があるものの,描写が緻密(というか現実的)な分だけ,介護のドロドロしたところを垣間見られます。理想と現実,理想的現実と現実的現実。今後の介護問題に対する問題提起は果たせているんじゃないでしょうか。

ああ……相変わらずエラそうに書いちゃいましたね。ごめんなちゃい。

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