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『著作物再販制と消費者』

2005年03月30日

著作物再販制と消費者』(編・伊従寛,岩波書店,2000年)

『著作物再販制と消費者』

先日紹介した,『だれが「音楽」を殺すのか?』と一緒に買った本です(参照:「『だれが「音楽」を殺すのか?』」)。本屋をぷらぷらしていたら,ちょうどいい具合に並んでいたもんで……。

さて,先般の著作権法改正で,「輸入権」なるへんてこな権利が創設されました。つまるところ,日本で販売している著作物を,海外経由で安く買うこと(いわゆる「逆輸入」)を,メーカーが禁止できる権利のことです。これと著作物再販制が結びつくと,合わせ技一本で,輸入盤の CD が一律3000円になる可能性が高まる……といった話は先日したところですね(参照:「洋楽一律3000円」)。本書もその流れで読んでみたわけです。

もっとも,本書が刊行されたのは2000年ですから,デジタルメディア関係の話題は,せいぜい CD や DVD,それに頑張ってゲームプログラムといった程度の射程しかありません(←ポケモンが頑張っていた)。当時はインターネットといっても,大部分の人がモデムでピーギャラやってた頃なので,ストリーミングや MP3 プレーヤーなんてものは,当然のことながら当時の世界で普及していません。

本書の編者は,文化政策的な見地から再販制擁護論を採っているようですけれど,現在でもこの論旨が通用するのか,検証しながら読むとなかなか面白いです。

本書の編者は,公正取引委員会から中央大学教授を経て,現在弁護士という経歴の持ち主で,独禁法の専門家です。書籍の体裁は対談形式になっていて,その相手も石原伸晃,海江田万里,枝野幸男,吉井秀勝といった面々。加えて,消費者団体の代表や,Hotwired Japan でお馴染みの小倉秀夫氏なんかも顔を出しています。専門家の集まりになっているのは,当時この問題が大して注目されていなかったことから,当然といえば当然なのかもしれません。

ただ,対談形式になってはいるものの,そのほとんどは編者である伊従氏の意見をそのまま反映している内容で,対談相手の面々が著作に積極的に関わっているようには見えませんでした。つまり,限りなく「著者」に近い「編者」なんですね。アメリカ判例やら各国法制やらを存分に持ち出して,対談相手を説き伏せていくという,ある意味ソクラテス的というかツァラトストラ的というか,そんな体裁になっています。

あたしが注目したのは,ここで出てくるアメリカ判例等々の知識です。あたしは,基本的に再販制は「悪」だという立場ですけれど,この資料はどの立場から読むにしても役に立つように思います。再販制がドイツ法制に倣ったことや,独禁法との関係でアメリカ判例がどのように推移してきたのかといった話は,なかなか他書ではお目にかかれないと思います。

もっとも,伊従氏の主張の部分は,「?」マークがたくさん浮かんでしまいました。というのも,同氏のいわゆる「文化政策の見地」という論拠が,今となってはかなり弱くなっているように思えるからです。その原因は,言わずもがなですね。インターネットです。

たしかに,2000年の当時からすると,著作物と消費者が出会う場は一般の小売店だったわけで,小売店がおとり廉売等々の競争にさらされることによって,一般ウケする著作物しか販売しなくなる,といった話は論拠として十分だったように思います。けれど,現在,消費者が著作物と触れあうチャネルは,小売店に限りません。

例えば,本書なんかは,恐らく一般的な小売店で普通に置いている商品ではないでしょうけど,ここで紹介すれば,アマゾン経由で少なくとも目にする機会は出てくるわけですよね……。皮肉といえば皮肉な話ですが……。一方で,再販制の元でも売れない本は作らないわけで,廃刊になる本は山ほどあったりします。それも今では,書籍の電子化に伴って在庫を抱えるリスクがなくなったことから,直販するメーカーや,人気投票で名著を復活させるなんてサイトも随分増えている状況だったりします(参照:「復刊ドットコム」)。論拠を支えるインフラが崩れていることは,否めないんじゃないでしょうか。

たった5年前のこととはいえ,随分時代は変わったもんです……。本書は,ちょっと昔に遡って,著作物・著作権の在り方を再検討するのにも役立つように思います。

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