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隠語の体系から生まれるプチ全能感

2005年08月30日

本当の話かどうかは知らないけれども,あるデパートの販売員(デパガ)の間では,「トイレに行く」ことを「横浜に行く」と言うといった話を聞いたことがあります。横浜の市外局番が「045」だから,「おしっこ」というわけ。

デパートの話は接客業の必要に迫られた言い回しなんでしょうけれど,巷には,大した必要もないのに極一部の人間にしか通用しない言葉が多くあります。職場でだけしか通用しない隠語はもちろん,業界用語や学術用語,サークル界隈の用語から井戸端談義用語まで……ネット界隈では,発している当人しか正確な意味の分からないコトバや,発している当人ですら意味の分かっていないコトバもあったりして。

そこで,こんな小咄を考えてみました。

熊: おーよしよし……お前も随分と立派なモヨランケになったな。もう少しで一人前だぞ。

ご隠居: おい熊。そこにいるのは猫だろう。モヨランケってのはなんなんだい?もしかして,それは猫とは違う別の生き物なのかい?

熊: いやいやご隠居。こいつはれっきとした猫ですよ。でも,あっしの中では普通の猫とはひと味違うんでさぁ。そこで,このひと味違う猫をモヨランケと名付けたというわけ。

ご隠居: わたしにはただの三毛のブチ猫にしか見えないがなぁ……。で,普通の猫とモヨランケを見分けるにはどうすればいいんだい?

熊: よくぞ聞いてくださった!モヨランケは三毛のブチ猫の中でも,めざしの食べっぷりが違うんでさぁ。あっしときたら,毎日働きもせずに部屋でぐだぐだ寝てるでしょ。そうすると縁側に猫が寄ってくるんですよ。日替わりでね。種類の違うのが。そんであっしは,この猫達をひねもす観察する……

ご隠居: そこでめざしの食べっぷりの違う三毛のブチ猫を見つけたというわけか。

熊: ご名答!ただご隠居,一見モヨランケに見えるけれども,中にはモグリもいるから気を付けてくださいね。こうした猫をあっしはモヨランケ・モドキって呼んでるんですけど……

ご隠居: 毒キノコじゃあるまいし。どっちにしたって実害はないんだから,気を付ける必要なんてないよ。それにしたって,熊,なんだってそんな猫に「モヨランケ」なんて名前を付けるんだい?「めざしの食べっぷりの違う三毛のブチ猫」じゃいかんのかい?

と,とりあえず話はここまでにしておきます。ここで熊がどう答えるのか,ちょっと考えてみたいもんですから。

言葉どうしがつながって体系化されると,そこに世界が生まれます。学術用語の世界なんかを見ると典型的ですね。学術というとあたしは法律分野しか専門がないんですけれど,「善意」や「悪意」のように,その世界になじまないと使えない言葉ってのが割とあります。

学術の仕事は複雑な「生の世界」を言語化して単純化することだ,なんて話を聞いたことがあるけれども,学術に限らず,隠語をはじめとして言語を体系化することは,単純化された擬似的な世界を作り出すことのように思えます。このとき,言葉の語り手は(その世界における)万能な創造主になるんだとも。

隠語には対外的に自分の世界と外の世界とを分割する役割がある,なんて言われるけれども,対内的には「おやまの大将」であれなんであれ,発言者の万能感を充足する役割が少なからずあるんじゃないでしょうか。

そんなわけで,あたしだったら,熊にこういう台詞を与えようと思います。

熊: だって,この界隈には野良の猫がたくさんいるでしょ。そいつらに名前を付けたら,自分が飼い主になったみたいに思えるじゃないですか。いや,飼い主どころか野良猫達のボスですぜ。あっしに猫を飼う甲斐性はないですけどね,名前を付けるだけだったらタダですよ。

オチもへったくれもない話ですね。

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