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〈有名人〉話をもう少し

2006年05月23日

先日から読んでいた『有名人と権力―現代文化における名声』をやっとこさ読み終わりました。前回は,本書の内容に触れていなかったので,メモがてら内容をさらっておきます。

本書は,〈有名人〉とその産業構造が,大衆の感情に訴えかける記号を生成することよって,大衆的な権力を作り上げるしくみを分析したものです。発想としては,先日紹介したサブカル分析の話が基になっているようで,大衆が特定の記号に対して文節=結合する様子から,政治権力や政治的リーダーシップが誕生する様子を検討しています。

ここでは、各技術形式において、いかなるオーディエンスの同一化が特権を与えられるのかを研究し、有名人の差別化法についての手がかりを見いだし、公的主体性の異なる表象を示唆した。一般的に解明されたことは、三つの娯楽形式は、感情権力が公的個人に収められるそれぞれ別の支配的経路を構築する、ということである。(snip)

娯楽有名人は、感情世界と公的個人記号へ向かうオーディエンスの感情的愛着に激しく作用する。他の形式の有名人が、その出現場所の訓育(ディシィプリン)(すなわち、ビジネス・科学・政治の合理性構造)において合理化されるのに対して、娯楽有名人には、公衆と有名人の関係における感情作用をはっきりと観察することができる。

有名人と権力―現代文化における名声』(P.David Marshall,勁草書房,2002年,pp273-274)

「三つの娯楽形式」というのは,映画,テレビ,ポピュラー音楽のことで,これらを背景にもった〈有名人〉(トム・クルーズ,オプラ・ウィンフリー,ニューキッズ・オンザロック)を分析していたのでした。そして,これらの類型に共通して言えることは,大衆の感情的な側面に訴えかけて支持を取り付ける,という構造です。

んでもって,この話を娯楽産業から政治に移すと,はっきり口に出してはいないものの,どうもポピュリズム批判として展開しているような気があります。

政治的出来事や政治形式は、自然に、また、ぴったりと有名人システム構造に当てはまるわけではない。にもかかわらず、三つの娯楽産業で機能的特権を与えられる有名人の三形式は、大衆を、あるいは、その感情的具現、すなわち、群衆を体現するために、いかに公的人格が利用されるかを説明する。あらゆる政治指導者の意味に含まれているのは、先に述べた感情結合の三形式である。政治指導者は、現代文化における公的主体性の織物に仕立てられる。〈正当化商品〉として短縮記述されて再構築されるゆえに、彼/彼女らは、文化における能動的な人間代理人の他の表現に似てくる。(snip)公的人格構築において特権的なのは、感情領域である。感情は、政治論争を合理的領域から感覚・感情領域へと移動させる。それは、現代文化の文化的ヘゲモニー形成の基準となる。明らかに統一のとれないような場所で、指導者は機能的統一性を取り繕うために感情的に利用される。政治指導者は、人々の象徴的代表の正当化装置として機能する。

有名人と権力―現代文化における名声』(P.David Marshall,勁草書房,2002年,pp328-329)

消費社会における〈有名人〉なるものには,現実の複雑な事象を「短縮」したり簡略化したりする表象機能に加えて,大衆と感情的に接続(同一化,親近化)することで公的人格として振舞う代理人(proxy)の機能があるんだそうです。んでもって,少なくともアメリカの場合,この感情的接続には,少なからず階層社会の現実を補間する民主主義的なイデオロギーがあるとのことです。

と,この話を読んでいて,どうしても想起してしまったのが,先日の選挙の話です。「郵政がどうした」とか「刺客がこうした」とかいったアレ。現総理大臣はそろそろ任期も満了ということで,メディアも長期政権を総括する特集をちらほらと組んでいるようですけれど,やはりあの総理は大衆の代理人としても,感情に応えるコノーテーションとしても,超一級の演出家であり役者だったと思います(あ,まだ過去形で話すもんじゃないですね)。特に,既存勢力や現行規範に対する「刷新」や「改革」といった,大衆感情に応えるイメージと,政治と無関係な場所でときおり発せられる「親近感」は,メディアを通じて確実に大衆感情に働いた印象があります。

小泉政治の内実はどうだったのか,といった話については,勉強不足だから識者の評に委ねるとして,本書は奇しくもちょうどいい時期に出会った気がしました。

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