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エンタメ化する裁判は「身近な司法」なんだろうか

2006年06月09日

今号の TV Bros. は「裁判」を特集にしていて,裁判員制度や裁判傍聴の手続を割と細かく紹介しています。そろそろ裁判員制度が始まるということで,裁判を身近に感じよう,という話が背景にあるようです。テレビ雑誌なのにめずらしい。

TV Bros. 2006年6月10日号表紙

裁判傍聴というのは,裁判所に行って裁判の様子を見るもので,簡単な手続きを済ませれば誰でも見ることができます。ボディチェックや所持品の検査を済ませたら,事件のリストから見たい法廷を選んで,その法廷に行くだけです。費用もかかりません。民事事件を扱う法廷と刑事事件を扱う法廷があるけれども,普通は刑事事件の方が分かりやすいはずです。

で,これはかなり個人的な感想なんですけれど,TV Bros. の扱い方には,ちょっと複雑な気持ちになってしまいました。「ブロスサスペンス劇場『裁判 その時何が・・・』」という見出しが付いているのを見ても分かる通り,全体的にエンタメ調なんですね。リストから事件を選ぶ説明なんかを見ると,映画館で見たい映画を選んでいるようなノリだし,裁判手続を2時間ドラマになぞらえて説明するところなんかは,そのまんまエンタメだったりします。

んでもって,ここで思うのは,厳粛な裁判をエンタメなんかにしよって,不謹慎だぞくぬやろ!ということではありません。エンタメ的に説明することにも,メリットはあると思うんです。裁判を傍聴する場合,傍聴手続は簡単なものの,裁判手続のあらましを知っていないと何をやっているのか分からないわけで,せっかく行っても意味がないことがあります。だから,普段テレビドラマだけを通じて法廷の様子を想像している人に向けては,「エンタメのノリで裁判を紹介する」というのも,とても有効な手段なんだとは思います。また,これから裁判員制度が始まると,一般市民も物見遊山じゃなくて現実に裁判に関わらなくちゃいけなくなるわけで,実際の裁判を知るきっかけになる,といった意味でも悪くありません。

ただ,ドラマと違うのは,事件が実際に起きている,ということです。

例えば,殺人被告事件の場合,被告人席に座っている人は,実際に人を殺したと疑われている人で,実刑が確定すれば本当に牢屋に入るか(死刑で)死ぬ人です。被告人にとってみたら,大抵の場合人生の一大事だし,また遺族にとってみたら,大変な生活に陥っていることも考えられます。一方で,当然のことながら,ドラマの被告人は有罪の判決が出たとしても,実際に人を殺しているわけじゃないし,牢屋に入ることもありません。遺族役だって,本当に身内を殺されたわけじゃありません。

で,こういう出来事(裁判)を,エンタメ的に紹介するもんなのか……と考えると,先のメリットとの間で複雑な気持ちになるというわけです。デリカシーを持てよ,とかいうウェットな話ではありません。あまりにもリアリティに欠けているというか……けれど,もともと裁判を知らない人にリアリティを求めても意味ないよな,というか,そんな感じです。まぁ……あたしもエラそうに言うほど裁判を知っているわけじゃないんですが。そういえば,数年前,日経 Win PC に連載されている「ウスクラ 電脳爆弾」にも,裁判傍聴のルポが掲載されていて,同様の気分になりました。

個人的には,個人がエンタメのノリで傍聴しに行くことは,ただのノリ(内心の問題)ですから一向に構わないと思うんです。ただ,「裁判ってのはこんなものですよ」と他人に紹介するときに,エンタメ的に説明することは,リアルな営為として受け取られるもんなんでしょうか。そう考えると,このように複雑になってしまいます。裁判をエンタメ化することによって,傍聴人席と被告人席との間に生じるリアリティの温度差は,かなり大きくなるんじゃないか,と思ったりします。

結局のところこの話,法廷をエンタメ化すれば市民にとって司法は身近になるのか,ということなんだと思います(ぶっちゃけすぎかもしれないけど)。身近にするにはエンタメ的な説明も有効,けれど,そこで説明される裁判のリアリティは怪しんじゃないか……。一方で,エンタメなノリも裁判のリアルだと言われれば,そう言えなくもない……よく分かりませんです。はい。

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