Entry

「宮崎イディオムのコラージュじゃん」とか言ったら負けだと思う

2006年08月03日

というわけで,観てきました,『ゲド戦記』。ネタバレ自己責任でお願いします。

『ゲド戦記』のチケット(イメージ)

もう,「あんたワザとやってるだろ」というくらいの(失礼)イディオムっぷりで,宮崎駿アンソロジーかと思いました。そんなわけで,「宮崎イディオムのコラージュじゃん」とか言ったら負けだと思います。

作品そのものは素朴に楽しめると思うし,素朴に楽しませてもらいました。むしろ,今までの宮崎作品が小難しすぎたのかもしれません。ストーリーはベタと言えばベタなわけですけれど,これは物語の外枠で,むしろ登場人物の心象表現で魅せる作品なんだ思います。

ただ,あたしゃ日頃から,どんな作品も自分なりに楽しんだもん勝ちみたいに思っているところがあるんですけれど(製作者の意図すら相対化できると思っている),ここまでカッチリした作品は,解釈の余地をほとんど与えない点で少し不自由です。そんなもんで,あたしみたいな「実存語りたがり」にとってみたら,この作品の話をするのは苦行に近い感じがします。実存を語るってのは,作品を解体した後自分で組み立て直すようなもんですから。とりあえず「現代における少年の心の闇」とか言ったら負け……(本当に言っている人がいたらゴメンナサイ)。

一方で,メインにしていたわけじゃないんですけれど,あたしの見所のひとつとして,ヒロイン(テル)がどう描かれているのか,ってのがありました。これは,斎藤環氏の『戦闘美少女の精神分析』で,「ナウシカはファリック・ガールだぜ」と言っていたことからの興味本位です。

戦闘美少女の精神分析
斎藤 環
筑摩書房 (2006/05)

正確に引用すると,以下の通り(〔〕は引用者注)。

さて、精神分析では「ファリック・マザー」という鍵概念がしばしばもちいられる。これは文字どおり「ペニスを持った母親」を意味しており、「権威的に振舞う女性」を形容する場合に使われることもある。いずれにしても、ファリック・マザーは、一種の万能感や完全性を象徴している。たとえば欧米圏のタフなファイティング・ウーマン達は、そのほとんどがファリック・マザーだと言ってよい。ところで私はこうしたアマゾネス達との対比から、戦闘美少女たちを「ファリック・ガール」と呼ぶことにしている。(snip)

物語の後半、ナウシカは王蟲を保護すべく戦う。そこにはもはや、いかなる外傷の痕跡もない〔※引用省略中,ファリック・マザーは外傷の前提を持っているとしている〕。おそらく彼女は、決してレイプされることのない存在なのだ。「レイプされることない存在」、言い換えるなら、いかなる実体性も持たない「存在」ということである。(snip)

ファリック・マザーが「ペニスを持つ女性」なら、ヒステリーとしてのファリック・ガールは「ペニスに同一化した少女」だ。ただし、そのペニスは空洞のペニス、もはやけっして機能することのない、がらんどうのペニスにほかならない。

『戦闘美少女の精神分析』(斎藤環,筑摩書房,2006年,pp312-316)

あたしゃ精神分析の仕方なんてのは知らないので,テルがファリック・ガールとして描かれているのか,正確なところは分かりません。ただ,素人目に見たところ,テルの来歴には明らかに外傷(※素人の用語遣いです)があるわけで,それが物語を牽引しているところがあります。また,これまでの宮崎駿作品のヒロインと比べても,テルはすぐ傷つくし傷付きやすいイメージも持っている。してみると,「レイプされることのない存在」かというと,ちょっと違う感じがします。つまり,より「生身の女の子」に近いんじゃないか,ということです。あたしゃ今のところ,この作品の感想をほとんど読んでいないんですけれど,もし「テル萌え」がないとしたら,ここら辺が原因かもしれません(※くどいですけど,素人考えです)。

言い方を変えれば,ここら辺がこれまでの宮崎アニメと違うところであって,この作品の魅力なんじゃないかと思ったりもします。表現手法やストーリー展開の枠をしつこいくらいに守りつつも,「何か違う」といった感覚が残るのは,このためかもしれません。

もっとも,クライマックスにおけるテルの変貌ぶりは,えらいことになっていました。斎藤氏の話が頭にあっただけに,「これはペニスなのか?」と一瞬思っちゃったんですけど,普通に観るのがいいんだと思います。いや,楽しかったんですよ。ほんとうに。

Trackback
Trackback URL:
Ads
About
Search This Site
Ads
Categories
Recent Entries
Log Archive
Syndicate This Site
Info.
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
Movable Type 3.36
Valid XHTML 1.1!
Valid CSS!
ブログタイムズ

© 2003-2012 AIAN