Entry

読書メモ - ウェブ人間論を読んだ

2006年12月26日

あたしの場合,ネットに対する認識は躁状態と鬱状態が交互に来るもんで,楽観する発言があるかと思ったら突然悲観したりしています。その点,本書の梅田さんは年がら年中躁状態なんじゃないかと思えました(※悪口じゃないです)。

ウェブ人間論
ウェブ人間論
posted with amazlet on 06.12.26
梅田 望夫 平野 啓一郎
新潮社
売り上げランキング: 89
おすすめ度の平均: 4.0
5 きらめくヒント
3 ウェブの現在をざっと見る
2 非常に面白い反面、不満も多い

本書は最近のネット事情にまつわる梅田望夫氏と平野啓一郎氏の対談集です。梅田氏にとっては,このサイトでも紹介した『ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる』の続刊という位置付けになるのかしらん。ともあれ,ネットの進展とともにユーザである人間はどのように変わるのか,という点に焦点を当てて対談しています。

個人的には,小説家の平野氏が対談しているというところがミソで,技術寄りに偏るわけでもなく,梅田氏側の経営寄りに傾くわけでもなく,いい塩梅のキャストになったんじゃないかと思っています。ネットにまつわる人文系の話は,もちろん巷にたくさんあるわけですけれど,経営的な視点と人文的な視点が交叉する機会というのはあまりありませんから。

で,あたしゃ本書を読んでつくづく思ったんですけれど,梅田氏も平野氏のネットに対してえらく真剣で真面目だと思うんですね。例えば,梅田氏にとってネットは,「自己啓発・向上」→「勉強」→「ネットには知がある」→「玉石混淆な世界を選り分ける Google に期待」みたいな流れがはっきりあって,ネットにまつわる技術もそうした文脈の中で相対的に位置付けられているんだと思います。また,平野氏にしても梅田氏程ではないにしても,「表現の可能性」とか「人間関係」といった具合に,割と目的論的にネットに触れているフシがあります。

この「真面目」あるいは「目的論的」というのは,それはそれで結構なことなんだと思います。ただ,あたしゃネットを考える上で,こうした目的論がどの程度有効なのか,ちょっと疑問に思っているんです。目的論というのは,つまるところ,「勉強するためのネット」とか「人間関係を構築するためのネット」とかいった具合の話です。

ネットの話が目的論的な議論にそぐわないと思うのは,あたしにとってネットが目的論的に見えないからです。たしかに,昨年から今年にかけて,ITベンチャーが一躍脚光を浴びて,ある種のムーブメントを作りました。また,ブログも普及が進んで,そうした状況も Web2.0 なんて呼ばれるようにもなりました。こうした動きの中には,ネットの活用法やらなんやらについて,一定の思惑(目的)があったことも確かだったと思います。けれど,それはネット全体で見ると,複数ある方向性のうちの1つに過ぎません。

ブログを例に挙げると,当初は「ウェブページを簡単に更新したい」といった素朴な欲求が働いて作られたツールだったんですよね。ただ,簡単にウェブページを更新できるようになると,やりたい事が他にも出てきます。自分の記事に対する言及を素早く知りたいと思う向きは,トラックバック機能を実装したし,コミュニケーションを求める向きはコメント機能なんかも付けました。結局どういうことかというと,コミュニケーションするためにブログができたんじゃなくて,ブログができたからコミュニケーションするようになったと思うわけです。んでもって,コミュニケーションするようになると,その質が求められて,新たな実装が生まれる。んでもって,その実装はまた新たな欲求を作り出す……。

あたしが見る限り,ネットの技術進展というのは,そうしたその場その場の積み上げみたいなもんで,かなりインクリメンタルなもんだと思うんですね。そこには,その場の欲求はあるけれど,目的論的な文脈は目立ちません。それは,ネットなるものがこれからどう変化していくのか不透明だからでもあるし,ネットに関わる人が多様に存在していることも原因にあるんだと思います。

そうした視点でネットと人間の関係を考えるとき,平野氏が引き合いに出すアレントの議論は,少し的外れに思えてきます。たしかに,ネットの話では人間関係を問題にできます。けれども,上の話を踏まえる限り,ネットのそれは現実の実装と欲求と間に生じる往復運動の上に形成されるもので,アレントが想定したスタティックな社会構造や人間関係を超えているんじゃないでしょうか。フーコーの権力観にしても,ネットの上でどれだけ説得的でいられるのか,ちょっと疑問に思えてきます。

んでもって,もし,このようにコミュニケーションや権力観が実装に左右されるのだとしたら,今後あたしたちに必要になる能力は,自分の欲求や妄想を現実の実装に落し込む能力なんじゃないかと思えてきます。少なくとも,実装を踏まえた上で議論できる素地は必要になるはずです。チープ革命ですしね。やろうと思えば,自分の周りの環境も格段に変えやすくなりました。政治が行なわれるとしたら,理念とかいった訳の分からないものではなくて,現実の実装のあり方に焦点が移るのかもしれません……と,東浩紀氏みたいなことを言ってみるテスト。

本書では,他に匿名に関する議論も熱く語られていたんですけれど,それはまた別の機会にでも。

Trackback
Trackback URL:
[2009年08月30日 18:26] 梅田望夫,平野啓一郎『ウェブ人間論』 from itchy1976の日記
ウェブ人間論 (新潮新書)梅田 望夫,平野 啓一郎新潮社このアイテムの詳細を見る 今回は、梅田望夫,平野啓一郎『ウェブ人間論』を紹介します。平野啓一郎氏が... [more]
Ads
About
Search This Site
Ads
Categories
Recent Entries
Log Archive
Syndicate This Site
Info.
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
Movable Type 3.36
Valid XHTML 1.1!
Valid CSS!
ブログタイムズ

© 2003-2012 AIAN