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読書メモ - 資本概念再構成の試みを読む

2007年02月10日

やっと,読み終わりました。結局,読み直しも含めて今週はこの1冊しか読んでいません。

「資本」論
「資本」論
posted with amazlet on 07.02.09
稲葉 振一郎
筑摩書房
売り上げランキング: 167904
おすすめ度の平均: 3.5
4 アウシュビッツを擬制によって抑圧することは、本当に可能なのか?
2 いろいろ詰まってます
4 さらなる議論の進展に期待

本書には,一応「プロローグ」が付いているんですけれど,稲葉氏の著作を読んだことのある方でもない限り,本書の内容を想定することはできないんじゃないかと思います。あたしゃ同氏の著書を読んでいないのと読解力が不足していることもあって,当初,何を言いたいのか意味が分からなかったです。はい。

Amazon あたりの書評(?)では,労働論だとかセーフティネット論として読まれているところもあるけれど,それは各論であって総論ではないみたい。どんなことを書いているのか,「プロローグ」から引用しておきます。

本書ではむしろロールズやノージックにならい、「自然状態からの社会契約論」を、今日的なスタンスから実際に展開してみて、それによってそれなりに――今日的にも面白いと思われる議論を実際に組み立ててみることによって、その「復権」の根拠を――それについて説明するというよりは――示してみようと思います。

あらかじめお断りしておけば、それは「社会契約論」というよりはむしろ「自然状態論」と呼ぶべきものになるでしょう。ホッブズやロックらの古典的なテキストを読み直してみれば、彼らの契約観、国家観の相違は、主として「自然状態」なることばで何を想定しているかの相違によっていることがわかってきます。しかし本書では、そうした相違を腑分けする系譜学的作業にではなく,そうした違いをひとつの枠の中に位置付ける分類学的作業、更にはそうした相違を生み出すメカニズム、どのような条件の下で、どのような社会契約が可能となるなるのかあるいはならないのか、についての経済学的にいえば「比較静学」、更にはそれが歴史の中でどのように変化するのか、についての動学的考察に重点をおきます。

『「資本」論』(稲葉振一郎,筑摩書房,2005年,pp10-11)

あくまでも,本書は「自然状態論」なわけで,どのような「自然状態」を措定すればどのような「社会契約」が可能になるのか,といった話をしているんだそうです(他人事)。で,それらの社会契約論に今日的な意味を見い出しつつ,現在の社会契約を再構成していこう……みたいな話がメインになっています。

ぶっちゃけて結論だけ言うと,本書では「労働力=人的資本」という概念をキーにすることで,社会契約を再構成します。

「雇用契約」の今日的な理解としては,「労働」とそれに対する「対価」を交換する契約,というのが一般的です。つまり,労働は取り引きの客体になっている,と。一般に契約は,契約の主体(誰が契約するのか)と契約の目的=客体(何を取り引きするのか)を分けなくちゃ始まらないわけで,雇用契約においては「労働」なる客体とその対価を交換する契約だと理解されているのでした。

でも,この「労働」って何なんでしょ……考えてみると,売買のように土地や建物のような「自分以外のモノ」を取り引きするのとはちょっと違う(全く客体であるとは言い切れない)。かといって,賃借権のようなものでもない……いや,そうなりうるけれど,そういうのは「労働者」とは言わないで,「奴隷」というんですね(本書では「剥き出しの生」と表現されている)。

無産者である庶民が生きていくには,労働しなければいけないけれども,雇用契約に代表されるような契約は,結局のところ何を取引きしているのか。これを自然状態論との絡みで言うと,庶民が国家と契約する際に放棄ないし預託する「財産」ってのは,結局のところ何なのよ,という話になってくるわけです(多分)。

「労働力=人的資本」は,人間が「剥き出しの生」として,つまり契約の客体として扱われないための概念装置なわけで,今日的な労働環境の問題状況を考える上でも,示唆に富んでいます。

面白いのは,「労働力=人的資本」概念が,政治的あるいは経済的「戦略」であることについて,著者の稲葉氏が十分に自覚的なことです。政治上の概念は必然的に擬制を孕むわけで,賞味期限があります。「エピローグ」の副題にある,「法人、ロボット、サイボーグ――資本主義の未来」は,「労働力=人的資本」概念の限界を探るもので,更なる議論の展開を期待させる内容になっています。

「自然状態」という概念は,社会科学系分野の超基本概念なわけで,それについて語るということは,法学,経済学,政治学,社会学といった分野に共通する原論であったりもします。そろそろ春ですし,その道に進む方は是非読んでみてはどうでしょうか。

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