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「出席いたさせます」という表現

2007年04月03日

たまたまネットをウロウロしていて見付けた話。「出席いたさせます」という表現はアリなのかナシなのか,という話です。

Q. 先日国会中継をテレビで見ていたら、
議長が「野党の諸君を出席いたさせます。」と言っていました。
なんという日本語!!
いったいなんなんでしょうか。

A. おかしいですよね。
『いたします』は、謙譲語ですから、ここで使うのは不適当です。
議長はなんと言いたかったのでしょうか。
「野党の諸君を出席させます。」ーーこれでは高圧的ですね。
「野党の諸君に出席して貰います。」ーーこれでは哀願調で議長の権威はありません。
で、中間的な雰囲気を出すために「野党の諸君を出席いたさせます。」
これだと『させます』で議長の権威が守られて、『いたします』で高圧的な雰囲気が
緩和されますね。
うーん、苦しい選択なんですね。

日本語Q&A 待遇表現(1)

この回答はどうなんでしょう。ちなみに Wiktionary には,「致させる」の用法が紹介されています(参照:致す - Wiktionary)。

文法的に考えると,「出席いたさ(謙譲語:未然形)+せ(助動詞:使役)+ます(助動詞:丁寧)」といったところ。これといって問題はありませんよね。

一方で,敬語も使役も相手がいて成立するのが普通ですから,語法として正しいのか,という話があるんじゃないかと思います。つまり「誰が誰を出席させるのか」ということと「誰が誰に敬意を表しているのか」ということが問題になると思うんですね。

語法の話はひとまず措くとして,回答の話はよく考えるとちょっとおかしい。どこら辺がおかしいかというと,「高圧的」とか「哀願調」といった「語調」を問題にしているところです。丁寧語だったら,その場に応じた言い回しがあるかもしれないけれども,尊敬語や謙譲語の場合は,とりあえず語調は関係ありません。というのも,これらは敬意を示す対象(目上か目下か)にだけ注目して使われるもんで,自動的に言い回しが決まるからです(と,高校の先生が言っていた)。実際に敬意の対象を敬っているかどうかも関係ありません。

そういうわけで,「謙譲語だから不適当」というためには,敬意の対象が確定していないと分かりません。

で,語法の話に戻ると,「出席致させます」というのは,「出席致す」(謙譲語)と「『出席致す』ことをさせる」(使役)のふたつに分けられますよね。まず,使役を見てみると,「出席させる人」は「議長」に間違いありません。「出席させられる人」は「野党の諸君」ですよね。というわけで,「誰が誰を出席させるのか」は分かります。

次に,謙譲語について見ると,「出席する人」は「野党の諸君」に間違いありません。じゃあ,敬意の対象はどこにあるんでしょう。あたしゃ思うんですけれど,これは国会なり委員会なりに対する敬意なんじゃないでしょうか。少なくとも,議長自身に対する敬意ではない。というのも,自敬表現は古典でも通常天皇しか使わないし,現代で自分を高めることは,もっとおかしいからです。

「出席致させます」の表現がおかしいと思うのは,第三者の敬意の対象が話者に向いていないからなんだと思います。けれど,同じようなケースは日常にもよくあるはず。例えば,こういうケースではどうでしょう。

A君は上司であるB部長にお使いを頼まれて,X社のC課長と会うことになりました。ところが,A君とC課長とではなかなか話がまとまらず,B部長にも話に参加してもらうことになりました。このとき,「今度B部長に出席してもらいます」と,敬語で言うにはどうすればいいでしょう。

この例の場合,「今度B部長にご出席(になって)いただきます」じゃおかしいですよね。A君にとってはB部長を高めるからいいにしても,B部長にとっての目上であるC課長もB部長を高めることになってしまいます(先方は目上ということで……)。こういう時,古典だと「多方面の敬語」なるもんがあるから便利なんでしょうけど,現代語では普通使いません。現代語では,一番目上の人に対する敬意(謙譲語)でもって,済ませるのが普通なんじゃないでしょうか。つまり,「今度B部長に出席致させます」とか「今度B部長も参らせます」とか,そんな感じになる……と。もちろん,ここで使われる謙譲語の敬意はC課長にあるわけで,A君にあるわけではありません。

まぁ,だからなんだってわけでもないんですけどね。ニホンゴ,ムカシイデスネ。

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