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読書メモ - プライドばかり高い無能

2007年07月16日

今日古本屋で買って読んでた本。なんだか,この頃こういう読書スタイルがお気に入りだったりします。ぷらっと本屋に入って,文庫を1冊手に取って,そこらの喫茶店やら公園やらで読んでいる,みたいなスタイル。「スタイル」だって,あはは。

エコノミカル・パレス
角田 光代
講談社 (2005/10)
売り上げランキング: 48538
おすすめ度の平均: 4.0
4 この世界の住人は間違いなく、この作品は読まないだろうな
4 佳作と言っていいだろう。
4 お金…?

「タマシイのない仕事はしたくない」という同棲相手は,仕事を得てもすぐにやめてしまうフリーター。そうした価値に一定程度の親近感をもちつつも,現実における経済的な問題が主人公を葛藤させる。フリーター世代の文字通り「フリー」な一面と,それとは裏腹にある閉塞感を描いた作品です。

本作品は全編に亘って主人公の独白として描かれているので,パッと見では主人公の内面,特に葛藤している部分が分からなかったりします。けれど,その心理描写はとても鮮やかですがすがしい。

プライドばかり高い無能、いつだったかヤスオがそんな単語を口にしていたが、私も所詮、そのような種類の人間なのかもしれない。雑居ビルに貼られた、黄ばんだ貼り紙から目をそらし、空を仰ぎ見る。空はくっきりと青い。私はかつて、いったい何になりたかったのだったか、そんなことを思う。みずからにどのような希望を持ち、どのような期待を抱き、どのような目標のもとに日々をすごしてきたのだったか。空にひっかき傷を作るように、長く細い雲を引いて飛行機が飛んでいく。

『エコノミカル・パレス』(角田光代,講談社,2005年,pp115-116)

「くっきりと青い空」に「ひっかき傷」というのは絶妙だな……と。また,ある意味お約束なのかもしれないけれど,独白から心象表現に移るタイミングも絶妙で,単純にすげーと思ってしまいました。

一方で,「プライドばかり高い無能」というのは,この世代にありがちな葛藤をよく表わしていると思います(自分も含まれてるわけですが)。立派な理想を持ちつつも,現実においては壁だらけ……みたいな。これはあたしの感覚ですけれど,自由すぎて不自由になるというか,反動する相手すら探せないというか,そういった閉塞感もあると思うんです。他の世代(世代論にするのもアレだけれども)から見ると,「ぜいたく病」呼ばわりされそうな状況ですけれど,こうした自由は案外キツい。

以下の一節は,主人公が大陸を放浪した時に出会った巡礼者に対して,「羨しい」と口にしたときのシーン。

うらやましいのはあなただとくりかえしながら、なぜか、しまったと心のなかで思っていた。しまった、言うべきでないことを言ってしまった、と。ものがあふれるなかで清貧を賛美するような悪趣味なことを口にしたという気持ちではない。もっと何か──自分たちの旅にまつわる決定的なことを、思わず漏らしてしまった気がした。

〔snip〕

羨しいと自分が口にした理由が、今ならわかる。彼女たちには目的地があった。目的地は折り返し地点だ。目的を果たせば人は帰ることができる。あのとき私が彼女たちを羨んだのは、だからだったに違いない。

『エコノミカル・パレス』(角田光代,講談社,2005年,pp61-66)

ここにも「目的」という言葉が出てきます。反動する相手がいることは羨しいことでもある。『自由からの逃走』みたいだな。

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