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本日の引用 - 責任と責任概念についてあれこれ

2008年01月03日

再読している『死を与える』よりメモ。

毎日の言説や正義の行使、そしてまず私的・公的・国際的な法の公理論、内政や外交や戦争の遂行などにおいて働いているもの、それは責任の語彙である。責任の概念がいかなるいかなる概念にも対応しないとは言えないとは思うが、それは概念を見出すことができずに、厳密性を欠きながら浮遊してしまっている。それは否認に対応してしまっている。周知のように、そうした否認のための方策はかぎりがない。たとえば、アポリアや二律背反を根気よく否認し、潔癖な良心を不安がらせ続けるようなものはすべて無責任だとか、ニヒリストだとか、相対主義だなどとし、さらにはポスト構造主義、そして最悪の場合には脱構築主義者などとみなすだけで十分なのである。

『死を与える』(ジャック・デリダ,ちくま学芸文庫,2004年,pp174-175)

昔専門にしていた刑事法には,責任概念があちこちに出てくるんですけれど,その多くは,規範的なものとして捉えられています。「規範的」というのは,「法的に」という意味だけれども,これはつまるところ法(あるいは法律学)の中で閉じている,という意味(だと思う)。

現代刑事法も,責任は一般普遍の概念になる前問題として,代替不可能な個別性に基づくことまでは(程度の差はあれ)承認します。「違法性は一般的に,責任は個別的に」なんていった文句もありますしね。では,その個別性はどのように「判断」されるのか。言葉にした時点で普遍化(概念化)してしまうモノを,他の人間が判断することができるんでしょうか。ここら辺に疑問を持つと際限がないわけで,まじめに考えると「無責任」のレッテルを貼られてしまいます。「脱構築主義者などとみなすだけで……」は笑うところ。

で,以下は,子の死を神にささげたアブラハムについての話。

できることならば中東の暴力の専門家でもある公正な予審判事は、この父親を嬰児殺しまたは謀殺の罪で告発することだろう。そして、少しばかり精神分析家でもあり、ジャーナリストでもある精神科医が、この父親に「〔刑事〕責任がある」ことを裏づけ、あたかも精神分析が意志や意識や潔癖な良心などについての言説の秩序をまったく撹乱させなかったかのように振る舞うならば、犯罪者である父が無罪となるチャンスはまずないだろう。もちろん彼はまったき他者が彼の信仰をためそうとひそかに(それでは彼はどうしてそれを知りえたのだろう)命じたから殺したのだ、などと言い立てることはできるだろうが、どうにもならない。あらゆる文明社会の法廷が確定判決としてこの男を有罪とするように、すべては組み立てられてしまっているのだ。

『死を与える』(ジャック・デリダ,ちくま学芸文庫,2004年,pp175-176)

これは,別の意味での(意思)決定論だと思う(参照:「カール・ポパーの非決定論と刑事責任論」(井田良))。従来,刑事法の決定論は科学主義に基づく因果関係を問題にしていたけれども,本書の議論は科学主義も織り込み済みの(構造としての)責任論です。

おそらく,刑事法の分野では,「社会の一員たる『人間』として,社会は誰を罰すべきか」といった,至極人間社会的な大前提を問題にしているんだと思います。これは,あくまでも人間の問題だということ。けど,これについて学生時分からとても違和感があったのは,そうした,「人間(社会)が - 人間を - 罰する」という本質について,刑事法概念が自由意思論や科学主義といったよく分からないものですり替えているように見える,ということだったのでした。誰だって返り血は浴びたくない。デリダにいわゆる,責任という語彙が「厳密性を欠きながら浮遊してしまっている」といった文句は,そのように理解できます。

一般に,被告人が「神に人を殺せと言われてやった」と主張したとした場合,刑事実体法上,心神喪失・心神耗弱が問題になることはあっても,期待可能性がまともに議論されることはないでしょう。責任の個別性は,結局のところ規範的な枠内にとどまるものであって,規範そのものが作り出す「概念」がそもそも一般的かつ普遍的な「言葉」によるモノだからです。

そして,社会に対する責任(社会責任)というのは,つまるところそういうことなわけで,自由意思のせいでもなければ科学的に云々の話でもない,と。そう考えることが,無責任やニヒリズムかというと……どうなんでしょうね。

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