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いわゆる「べき止め」を擁護してみる

2008年01月25日

どっから出てきたんだか良く分からないんですけれど,「べき止め」は国文法的に間違ってんじゃねーの?みたいな話があります。例えば,こんなの。

プリミティブ型を引数に取る関数は,値渡しにすべき(だ)。

どこが間違ってるのか,ぱっと見分からない方もいらっしゃると思います。それが普通だとも思うんですけどね。でも,これは誤用だそうです。なぜかというと,助動詞「べし」の終止形は「べし」であって「べき」じゃないから。連体形の「べき」で終止するのはおかしい,と。

要するに,上の例文は,次のようにすると正しい文になる,と言っているようです。

プリミティブ型を引数に取る関数は,値渡しにすべし。

現代語としてみた場合,はじめの例文と2番目の例文は,意味が若干変わるようにも見えます。例えば,はじめの例文は,「べし」の意味の中でも「適当・勧誘」(……した方がよい)のニュアンスがあるのに対して,2番目の文は「命令」(……しなさい)のニュアンスが強いとかいった具合。けど,少なくとも2番目の例文は,あくまでもニュアンスの問題で,「どちらにも解釈できる」というのが正しい。

現に,助動詞「べし」には,「適当・勧誘」の意味もあれば,「命令」の意味もあります。ついでに言えば,「可能」(……できる)の意味も持っています(例:推して知るべし(推而可知))。じゃあ,これらの意味をどうやって区別するのかというと,これって文脈依存なんですね。つまり,どの意味で使っているのかは,その人の国語的なセンスによる,ということです。

んでもって,文脈依存ということは,裏を返せばその一文から意味を確定できない,ということでもあります。2番目の例文を「値渡しにした方がよい」と解釈しても,「値渡しにしなさい」と解釈しても,「値渡しにできる」(これは無理があるか?)と解釈しても,その一文だけを読む限り,どうとでも解釈できるというわけです。これは不便極まりない。

一方,「べし」で終止するのと比べると,「べき」で終止する場合の方が,「適当・勧誘」の意味が前面に出てきます。勘違いする余地が少ない,というわけです。あたしゃ思うんですけど,「べき止め」ってのは,そうした経済的な需要から生まれた用法なんじゃないでしょうか。「べき止め」は国文法と異なることは認めるけれども,それは国文法の用法じゃ満足に表現できないから編み出されたもんなんだ,と,云々。使えない国文法は守る必要がない。それが誤用かなんて話は,ただの「呼び方」に過ぎない,とか思ったりするわけです。

ここでの例文で技術的な例文を選んだのは,他でもなく,英文の仕様書で助動詞の意味を割と厳格に使っている場合があるからです。英文仕様書の冒頭には,大抵こんな文言が入っていますよね。

This document occasionally uses terms that appear in capital letters. When the terms "MUST", "SHOULD", "RECOMMENDED", "MUST NOT", "SHOULD NOT", and "MAY" appear capitalized, they are being used to indicate particular requirements of this specification. A discussion of the meanings of these terms appears in [RFC2119].

これらの文章を翻訳する場合,should も must も「べし」で止めていたらどうなるでしょう。「文脈嫁」じゃ済みませんよね。まぁ,must は「べし」を使わないんでしょうけど。

同じようなことは,有名な「ら抜き言葉」にも言えることで,「食べられる」という一語では,「受身」なのか「可能」なのかが分かりません(「尊敬」は「召し上がる」があるから区別できるし,「自発」は「食べる」場合に普通使わないから区別できる)。「食べれる」を「可能」の意味として常用するのは,「受身じゃないよ」ということを裏側で示しているとも言えるんじゃないでしょうか。

「べき止め」も,「命令じゃないよ」という意味を裏側で示している,と。そう考えると,合理的に思えるんじゃないでしょうか。そうでもねいか。

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