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インターフェイスの「使いやすさ」を定量的に判断することなんてできるんかいな

2008年08月11日

少し前の記事ですけど,こちらから。

「ITエンジニアの使い勝手の重要性に対する認識は,一般に不足しているのではないか」と,工業デザインの専門家でシステムのユーザー・インタフェース設計も手掛ける富士通総合デザインセンターの岩崎昭浩コーポレート・ソリューションデザイン部長は指摘する。「使い勝手を少しでも高めようという意識が欠如しているエンジニアは決して珍しくない」

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一方で,徹底して現場のユーザーの視点に立つことを指向して体系化したユーザー・インタフェースの設計開発方法が存在する。それが,「ユーザー中心設計(User Centered Design=UCD)」である。米国を代表する認知科学者であるドナルド・ノーマン氏が1986年に著書の「USER CENTERED SYSTEM DESIGN」で提唱したのをきっかけに,世界的に研究が進んでいる。

使いにくい業務システムが生まれる理由:ITpro

ドナルド・ノーマンは『誰のためのデザイン?』の著者で,いわゆる「アフォーダンス」の概念を広めた人です。アフォーダンスというのは,例えば,腰掛けるのにちょうどいい岩なり台座なりがあった場合に,そのモノが座ることをアフォードしているという意味で使われます。つまり,「椅子」と称されるモノがあったとしても,ユーザとの関係で,座れるものとして「認知」されていなければ,それは椅子として機能していないよ,という話。ウェブユーザビリティの場面で言われるところでは,ボタンらしく見えるボタンを作ろうね,みたいな話です。

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で,このアフォーダンスなんですけれど,これって,ユーザによってアフォードされるもんがマチマチなんです。例えば,先の椅子の例で言うと,大人にとっては椅子としてアフォードされている岩であっても,子供にとっては座れないから「ただの岩」,みたいなことがありうる……と。

でですね,こういうことを無視ないし軽視して,あたかも,客観的に使いやすいインターフェイスなるもんがあるかのように(そしてそれに貢献するものとして UCD なるものが体系付けられているかのように)考えるのは間違いだと思うわけです。

で,こういうことも考えてか,最近は,仕様を決める段階で「ペルソナ」なるもんを立ててみよう,なんてことをやってるとこもあるみたい。ペルソナってのは,ユングのアレではなくて,「仮想ユーザ」みたいなもんです。

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けれど,大規模な業務システムになると,ペルソナを立てるっつっても大変なことになってしまいます。例えば,生産管理や外注管理,在庫や受注といったあらゆる業務システムを(少なくとも UI 上)ひとつにまとめること考えるとします。この時,このシステムにかかわるアクターは本当に多岐に亘ってしまうもんで,ペルソナったってひとつやふたつじゃ済みません。かたやパソコンをバシバシ使ってる部門があるかと思えば,もう一方では,パソコンなんて触ったこともない,という方がシステムを使うことになっていたりします。

こんなもん,ひとつの(あるいは限られた)UI で吸収できるのか……と。パソコンを使っていない人からすると,フォームがあっても「文字を入力するところ」としてアフォードされていないってことが普通にあります。

かなり以前に,できかけのシステムをお客さんに見せて,使用感を検証してもらうことがありました。若い従業員の方から,具体的に使い勝手の評価を頂いて,その場はその方の評価を中心に検証が進んだんですけれど,問題なのは,少し離れたところに座っていた年配の方で,「便利になるんだねぇ……」と,穏やかに口にされていたことだったのでした。

この言葉は,額面通り受け取っちゃいけなくて,多分,当人の内心は不安で一杯だったんじゃないかと思います。大体もって,マウスに触れたこともなければ,ブラウザの画面を見たこともない人が,3層C/Sの画面を見て「便利だ」と思うはずがない。普通だったら,「こいつをオレが使えるんだろうか……」と思うに決まってます。見せたシステムは,その方にとってみたら,まったくもって仕事の道具としてアフォードされていない,と見るべきでしょう。

けれど,ブラウザを使ってフォームに必要なデータを入力し,ボタンを押して作業を進める,といった,操作方法は,イマドキの作業者からすると空気のようにアフォードされている作業環境なわけで,まったく違和感がありません。むしろ,この環境を変えることは「不便」につながってしまう。どちらかに合わせると,どちらかが立たなくなる,というわけです。

ここでの例は少し極端でしたけど,同じような問題はどこにでもあると思うわけです。パソコンを使ってるっていっても,テンキーの操作が中心でした,とか,パソコンって緑の文字が出てくるアレ(2層のコンソール)でしょ?と思っている人もいる。特に IT 関連の UI は,変化が目覚しいので,人によって操作感がまるで違うのはざらだったりするわけです。

冒頭引用のソニー生命保険は,「ユーザー・インタフェースの設計プロセスや画面一つひとつのデザイン方法などに関する社内標準」を策定したそうですけれど,策定したところで,この標準が社員に行き渡るのかは,かなり疑問です。もともと,コンピュータシステムの操作感について,ムラがないとこならできるのかもしれませんけど,そうでなければ,「標準の習熟」にかなりの時間をかけなくちゃいけません。

結局ですね,言いたいことは,「ノーマンとか持ち出すと,どっちにしたってお金がかかるよ」ということなのです。なんだか,なんだかなんですが。

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