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今日読んだ本 - 『ウェーブレットによる信号処理と画像処理』

2009年02月01日

フーリエ変換の応用で,時間領域で局所化した波を基底関数として使う,ウェーブレット変換(wavelet transform)という考え方があります。JPEG2000 の基本アルゴリズムに採用されたので,言葉だけは知っている人も多いはず(現在の JPEG は DCT(Discrete Cosine Transform; 離散コサイン変換)を使って圧縮している)。

で,今ちょっとこいつを覗いているんですけれど,専門書籍が高価なもんで,安価に手に入るところからためしに読んでみました。でも,これはちょっと微妙だなぁ……。

ウェーブレットによる信号処理と画像処理
中野 宏毅 吉田 靖夫 山本 鎮男
共立出版
売り上げランキング: 235539
おすすめ度の平均: 2.5
1 すでにウェーブレットを理解している人のための復習用読み物
1 稚拙。
4 入門書としては,最適?
4 これまで色々な本を探してみたけど

フーリエ変換で画像解析をやってみると分かるんですけれど,ほとんど致命的な問題として,時間的に局所化した波を認識することが難しいっつのがあります。フーリエ変換は sine 関数と cosine 関数を基底関数にして,延々と周期的に続く波をを前提にした解析手法なんですけれど,コンピュータで計算する場合,どこかで時間を区切らなくちゃいけません。ここで,時間領域のサンプル点数を増やす(時間分解能を下げる)と,周波数領域の分解能が上がる一方,局所的な波をサンプリングする(時間分解能を上げる)と,今度は反対に周波数領域の分解能が低減しちゃうという欠点があったというわけです。

あたしがやってるところでは,ここら辺の兼ね合い(時間-周波数分解能のトレードオフ)を考えるのが難しかったもんで,どうにかできんもんかと思っていたのでした。で,一応,候補に挙がったのが,ウェーブレットを使う手法だったと。

本書は,くだんのウェーブレット変換について解説したものです。他書と比べると,画像解析の応用事例が載っているので,目的が一致すれば親しみやすいんじゃないかと思います。一方,この手の話は,純粋に数学の分野から入る向き(学生,研究者)と,あたしみたいに実務的な分野から入る向き(技術者,プログラマ)がいるわけで,どちらかの嗜好に合わせるとどちらかが立たないってなことがあったりします。あたしからすると,要するに「使えりゃいい」わけで,純粋数学的にほげほげしようとは思ってなかったりする。

この点,本書は道具としてのウェーブレット変換といった点に焦点を当てているわけで,その意味で言うと,Amazon のレビュアーのように,「大学」で複素関数論から順番にお勉強している人からすると,あまり役に立たないのかもしれません。

なので、数学専攻の読者には不向き。複素関数論を履修した読者ならフーリエ変換は既知で、本書の前半はすでに知っていることのはず。後半のうちのさらに半分は応用例で、長いソースダンプを除いた残りの数十ページがウェーブレットの理論説明だが、なまじ平明さを意識しているせいで、命題から命題への流れが切れぎれで、綿密さに欠ける。

Amazon.co.jp: カスタマーレビュー: ウェーブレットによる信号処理と画像処理 By Parastyx

けど,このレビューはどうなんだろう。あたしゃ,コテコテの文系出自の人間だけど,本書にある数式くらいなら普通に読めます。つか,エンジニアなめてるだろ,こいつ(と,毒を吐く)。

ではエンジニア系の読者の役に立つかというと、説明が純粋数学の用語・記号で書かれているので、結局のところ、数学系専攻の大学2年生以上の知識がないと、読みこなすのはほぼ不可能。

Amazon.co.jp: カスタマーレビュー: ウェーブレットによる信号処理と画像処理 By Parastyx

他方,微妙だと思うのが,レビューでも指摘されている,よく分からない比喩の話。知ってる人からすると,ある意味ネタとして笑えるんですけど,本書で一からウェーブレットを覗いてみようという向きには,余計に意味が分からなくなるかもしれません。こゆのは,コラムとして別項にまとめておけばよかったんじゃないだろうか。

くだんの引用レビューでは,C のソースが載ってないかのように書かれているけれど,C と Matlab の両ソースが載っています。また,画像素材にレナ(Lenna)が使われているという指摘についても,どこかおかしい。あたしが読んだ初版第9刷では,MANDRIL と GIRL しか使われていなくて,Lenna はどこにも使われていない。どこの本を読んだんだろ,この人。さらに,本書は1999年初版なわけで,2009年のレビューとして「今時ならリフティング・スキーム」とか言い出すのも,後出しジャンケンだろう。ただ知識をひけらかしたかっただけなんだろうか。

ともあれ,実務で使う上では,「使える本かどうか」が問題なわけですけれど,正直,本書だけでは厳しい感じがします。領域分割の最尤推定や MAP 推定あたりなんかは,参考になったんですけれど,特に MAP 推定(最大事後確率推定)あたりは,ベイズ推定周りを他書で補わないと実用にはならなそうな感じがします。

フーリエ変換を一通り理解した向きが,ウェーブレットをチラ見するのにはいい気がします。

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