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雇用流動化どんどんやれやれ

2009年02月11日

こちらの話から。自分の専門から他の分野を攻撃するとき,「感情的な議論」とか「ナンセンス」とか言い放つことが多いのだけれど,典型的に乱発していて笑えた。

彼は雇用流動化が「北風」政策だというが、これは理論的にも実証的にも間違いである。前にも書いたように、雇用流動化は労働需要を増やす「太陽」政策なのだ。それは経営者に解雇というオプションを与えるので、オプション価値の分だけ労働需要は増える

雇用流動化で失業率は下がる - 池田信夫 blog

あたしの理解で言うと,この「雇用を流動化すべし」なる話は,結局のところ,経済変動に対するリスク(上下のブレ幅から得られる利益・不利益)を企業と労働者のどちらが取るのか,といった話なんだと思います。この点,雇用を流動化する政策を選択するってことは,経済環境なり企業業績なりのリスクを,これまで固定費だった労働賃金でもってヘッジできるようにするってな話なわけで,直感的に考えても労働需要は増えるはず。言われなくても企業にとってこんなにオイシイ話はないわけで,そこを強調されても「まぁ,そうなのかもね」としか言えない。

で,「感情的な議論」とか「ナンセンス」とかの話なんですけれど,あたしが聞いた範囲における経済政策上の理想つのは,「失業率を下げる」あるいは「完全雇用を実現する」とかいった話だったんだと思います。厳密に言うと「失業率を自然失業率の水準に近づける」ということ。結局のところ,ある程度の失業はあっても仕方がないよね,というスタンスだったりする。

一方,小倉氏の寄って立つ法学の発想は,その「現に存在する」失業者にも及ぶ。いや,むしろ失業者にこそ及ぶ。デリダを引くまでもなく,法なり法学なりってのは,現在の秩序が揺らいだり破壊されたりする具体的な「その場」にこそ立ち現れるモノなわけで,ノーマルで平穏な状態では出番がなかったりします。つまり,雇用問題においては,経済政策が「自然失業だから仕方ないじゃん」で済ませた人を扱うのが法学なわけで,立ち位置が異なることをまず把握しなくちゃいけない。

その上で,他分野の議論を「感情的な議論」とか「ナンセンス」とかと称するのは,自分の分野にその議論を扱う言葉がないことを認めている可能性もあることを考える必要がある。この点で,少なくとも現状の経済学は,完全雇用を実現する考えに「ナンセンス」の烙印を押してしまったのだから,これ以上は何も言えないんじゃないだろうか。

もっとも,法学的な発想からしても,あたしゃ池田氏の言う正社員の解雇要件緩和については,賛成だったりします。こういう考えには,あえて乗る。しかし,そのためには,被用者の離職の自由も,これまで以上に認めていく必要があるだろう。被用者の離職の自由というのは,例えば,「会社都合」や「自己都合」といった,けったいな風習をなくすということ。以下のような理屈は,雇用の固定化につながるので改める必要があるんじゃないだろうか。

ところで弁論の全趣旨によると、控訴会社の退職金制度は全額使用者負担となっていて、従業員の積立金方式あるいは一種の共済方式によるものではないことがうかがわれる。かかる方式の下では、退職していく従業員に対しどの程度の退職金を支給するかは使用者側において或る程度裁量的に定め得るものと解される。退職金の支給額(率)につき、会社都合による退職と自己都合による退職とて差異を設けることは広く行なわれており、更に自己都合退職の場合でも法律の規定または公序良俗に違反しない限り、退職事由によって算定基準に差異を認めることも許されるものと解する。本件の場合、同業他社へ転職の場合は、単なる自己都合退職の際の半額しか退職金を支給しないという退職金規則の規定は、まさしく右に該当する場合の退職金の支給基準を定めたこととなり、その要件を充足するときは、退職金がその支給割合に応じた数額しか発生しないことを意味する。しかも、退職事由により退職金支給算定基準が異なることは、予め控訴会社従業員には周知され判明している以上、従業員において同業他社へ転職するか、他の企業へ行くか、そのまま残るかの利益、不利益を十分比較できるのであって、そのいずれを選択するかは専ら従業員の意思に委ねられているのである。

労働基準判例検索-全情報

退職金が半減する不利益と他社に移る利益を衡量した場合,長く場合勤めれば勤めるほど前者の不利益の度合いが高まります。不満があっても現企業に残る選択をせざるを得ないことも少なくない。より優秀でより生産性の高い個人は,就業する企業を選択する事実上の権利を認めるべきだと思うわけで,一定期間積み立てた退職金の支払額に差異を設けることは,少なくとも雇用の流動化とは相容れない風習だろう。

実のところ,法制度ではないものの,現行企業の就業規則には,社員を企業にとどめておく仕組みがたくさんあったりします。企業にのみオプションを与えるだけでは,片面的な政策だと言わざるを得ないわけで,池田氏にはその点についても言及してもらいたい。

つことで,結論は「雇用流動化どんどんやれ」と「経済学は派遣切りの失業者を救えない」ということでいいのかな。

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