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脳死周りつらつら

2009年07月17日

改正法の中身を洗ってないんだけれども,この話から。

脳死を「人の死」とすることを前提に臓器提供の年齢制限を撤廃する改正臓器移植法(A案)が13日午後、参院本会議で賛成多数で可決、成立した。

「脳死は人の死」改正臓器移植法が成立 : ニュース : 医療と介護 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

脳死が人の死ということになると,刑事法上の死の概念も変更されるのだろうか。これまでは,いわゆる三兆候説(呼吸の停止,心肺停止,瞳孔反射の喪失)が判例だったけれども,自然人を脳死の状態にすると,人を殺したことになるんでねいか,とつらつら。つまり,殺人罪なり過失致死罪なり,強盗殺人罪になると。

で,仮にそうだとした場合,特に故意犯の故意の内容はどのようになるんだろう。言葉の上では,「被害者が脳死になることを認識・認容していること」ということになりそうだけれども,これは実際,かなり際どい認定になるんじゃないだろうか。未必の故意との合わせ技で,殺人の故意を認定する範囲が広くなるようにも思える。

もっとも,殺人の故意(いわゆる殺意)については,そもそもゴチャゴチャしているところがあるので,こちらも参照。

ところが最高裁判所はこの11月に、殺意の概念を「人が死ぬ危険性の高い行為をそのような行為であると分かって行った」(A)と認めることが出来れば「殺意と法的に評価しうる心理状態があると認定するのが一般的」(B)との司法研究報告を発表しました。(A)をよく見て下さい。ここには「死」の認識はありません。この報告は、従来の故意の概念とは全く異なるのです。

大川法律事務所ー主張・ウィリアム・テル殺人事件

「脳死になる危険の高い行為をそのような行為であると分かって行う」というのは,どういう心理状態なんだろう。かなり技術的な問題になるんじゃないかと思ったりもする。

もともと,臓器移植法については,脳死を人の死と認めないまま,移植行為については,殺人罪の違法性を阻却する(正当行為; 刑法35条)という案も,脳死臨調で検討されていたはずです。これはどこに行ってしまったのだろう。やはり,法技術論とはいえ「生きながらに他人の臓器を摘出する」といった感覚に抵抗があったのだろうか。やってることは変わらないんだけど。

また,この感覚というのは,結局のところ,医療機関が人の「生/死」に対する積極的な介入を忌避したためのようにも見える。改正法の死の概念によれば,死体から臓器を摘出しても,「死」→「死」への移行しかないけれど,違法性を阻却するといった場合「生」→「死」への移行が現れてしまう。いずれにしても,脳死患者の手は温かく,代謝もあるわけだけれども。で,もしこゆ回り道が許されるのだとしたら,尊厳死(積極的尊厳死)についても,同様の議論が成立する素地を残したんじゃないかとも思う。

一方で,今回の改正法で議論が尽くされていなかったと思うのは,移植行為そのもの,ひいては脳死患者の関係者の感情を法的にどう取り扱うのか,といったことだったのだと思う。いや,「かわいそう」とかそゆのではなくて,保護すべき法益との関係で,脳死ではなく「移植手術」を法的にどのように位置づけるのか,ということ。脳死患者が生きているのか死んでいるのかってのは,移植手術に当たって障害となりうる事由を回避するための法技術論だったわけで,移植ができるなら「どっちでもいい」話だったんじゃないだろうか。結局のところ,移植に当たって「国家が保護すべき当のものは何なのか」といった点から(も)考えなくてはいけない話だったんだと思います。

しかし今回,脳死は人の死だから移植はオッケーといった消極的な構成を採ったために,移植そのものの法的位置付けが途端にぼやけてしまい,移植の要件についても数字合わせのような議論になってしまった。かろうじて,「移植に対する同意」に法的な議論の余地が残されていたけれども,これも法益との関連で議論されることはなかったように思う。

この点,現行刑法にも,同意殺人罪(刑法202条)や死体損壊罪(刑法190条)があって,保護法益についてゴニョゴニョと議論があったりします。また,人が死なない場合でも,法益処分による違法性阻却の事例(やくざの指ツメとかSMプレイとか)なんかも,教室事例では検討されている。例えば,家族の同意の程度を考えるに当たっては,これらの保護法益とのバランスを考える必要があったと思うんですけれど,どんなもんなんでしょ。

つか,今回の話は,どうひいき目に見ても,移植を受ける側の都合が先行していたわけで,保護法益の体系全体を俯瞰する視点が欠けていたのは,事実だと思います。今後いろいろと揉めるんだろうな。別のところで。

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