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読書メモ - 功利主義の功利

2009年10月08日

まだ全部読めてないアレントから少しメモ。

人間の条件 (ちくま学芸文庫)
ハンナ アレント
筑摩書房
売り上げランキング: 14015
おすすめ度の平均: 4.0
3 読んで損はない。が……
4 人間として生きる意味を問う、一つの視点
3 もっと労働に意欲を示せ
5 自分の視点の軸にすえる
4 名著だが読解には注意が必要

全体の流れをやや無視して以下だけ取り上げます。

製作の活動力そのものに固有の有用性の標準につきまとう困難は、次の点である。すなわち製作が依拠している手段と目的の関係は、すべての目的がある別文脈では再び手段となるような連鎖に大変似ているということがそれである。いいかえると、厳密に功利主義的な世界では、すべての目的は、短期間のものであって、必ずその先のある目的のための手段になってしまう。

この難問は、とりわけ〈工作人〉の哲学であるすべての一貫した功利主義につきものであるが、理論的には、有用性(ユーティリティ)と有意味性(ミーニングフルネス)の区別を理解しえない功利主義本来の無能力からきていると判断できよう。この二つの事柄の区別は、言葉の上では、「ある目的のために」("in order to")と「それ自体意味のある理由のために」("for the sake of")という区別として表現されるものである。こうして、職人の社会に浸透している有益性(ユースフルネス)の理念は――労働者の社会における安楽という理念や、商業社会を支配している利得という理念と同様――実際にはもはや有用性の問題ではなく、意味の問題である。(snip)レッシングがかつて当時の功利主意哲学者に発した「ところで効用の効用とは何か?」という問いにたいし回答がありえないことは明白である。功利主義の難問は、それが手段と目的の際限のない連鎖にとらえられてしまい、手段と目的の、つまり有用性そのもののカテゴリーを正当化しうるある原理に決して到達しないという点にある。

『人間の条件』(ハンナ・アレント,志水速雄 訳,筑摩書房,1994年,pp245-246)

これはあたしが常日頃疑問に思っていることなんですけれど,例えば,社会科学なかんづく経済学の目的はなんなのだろう,ということだったりする。経済学そのものから特定の目的を持った政策なり,特定の価値を求めることができるのだろうか,ということです。

論者の言がそもそも経済学に基づいているのか分からないところもあるんだけれども,あたしが見る限り,経済学そのものに関する言説と,それに基づくとされる政策提言との間には,論理的に飛躍している箇所があるように見えることがあります。せっかく経済分析のところまでは冷静な分析があるのに,それに基づくとされる政策の提言では,経済学の外部にある恣意的な価値観なり歴史観を導入しないと説明がつかないことがある。例えばベタな「ファシズム独裁」のような歴史的な観点とか。

もちろん,学際的な立場はあってもいいと思うし,ファシズムなりなんなりを批判/支持することを正当/不当と信じることが悪いとは言いません。問題はそこじゃない。問題なのは,そこから先って経済学じゃなくね?みたいに思うことがあるということ。経済学外の価値観/歴史観を,経済学的な言説「として」しのばせるところにある。そうした言説は,拠り所が自己にないためか,やけに感情的。その価値観/歴史観を正当化する論証は他人任せですか?空気読んでくれですか?と。

法学の場合はというと,多くの場合,客観的に正しい解釈はありえず,合目的的に解釈される,と割り切った態度をとります(そうした解釈の作法も俎上に乗るわけだが)。「合目的的であること」というのは,科学的/客観的であることを信条とする分野からすると,恣意的であてにならないものに映るかもしれないけれども,それが現実の社会を扱うということなのだと思います。また,(法的安定性も含めた意味で)合目的的であることを前提にするということは,目的そのものをも俎上に乗せることに他ならないわけで,究極的には基礎法分野として開けている。

これは例えば工学分野についても思うことがあります。「手段と目的の連鎖」という観点からすると,経済学よりも工学の方が分かりやすいかもしれない。結局これは,「のために」というときの拠り所の問題なわけで,現実問題を扱うということは,この点についてパンツの一枚でも脱いでやるような,割り切りというか,さらけ出しが必要なんじゃないだろうかと思ったりもします。

そゆことできないやつは,学校の中でオベンキョウしててください,と言うしかないんだけれども,どうなんだろう。

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