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ビラ配りの最高裁判決からつらつら

2009年12月01日

ビラ配りで有罪が確定したとのことで,それなりに話題になっているのでつらつら。

まず朝日の社説なんだけれども,うーん……。

罪が成立するかの判断にあたって最高裁は、(1)荒川さんがマンション管理組合の意思に反して入った(2)玄関ドアを開けて7階から3階までの廊下に立ち入った、という点を重視した。

asahi.com(朝日新聞社):社説

えーと,これは「重視した」とかではなくて,単純に住居侵入罪の構成要件に当てはめてるだけなんですよ。具体的に言うと,住居侵入罪における「侵入」の解釈論なんですけれど,判例は住居権者の意思に反する立ち入りを侵入としているので,規範については今までの解釈をそのまま持ち出しただけ。

で,本判決の意義のひとつと言えるのは,おそらく,マンションの共用部分に立ち入る場合,住居侵入罪における「住居権者等の意思」が何に当たるのかを明示した点にあるんだと思います。ちと他の判例を調べていないから,先例があるのかもしれないけれども,形式的に考える限り,マンションの共有部分の使用における意思は,管理組合の意思表示によると言っても不自然ではないし,構成要件の解釈に関する限り人権問題が出てくる余地もない。

一方,もうひとつ。今回の事件で被告人が主張したのは,上のような「構成要件に該当しない」というのもあったんだろうけど(一審は主張どおり構成要件該当性を阻却した),メインになっているのは,いわゆる可罰的違法性の問題なんですね。これは,構成要件に該当することを前提とした,違法性の問題です。んなもんで,本判決を支持する向きがいくら構成要件に該当することをまくし立てたところで,まったく意味がない。的外れです。可罰的違法性の話は面白いので,知らない人は是非勉強してもらうといいと思う。

少し説明しておくと,可罰的違法性というのは,形式的に法に違反している場合(形式的違法性がある場合)でも,罰するに足るだけの実質的な違法性がない場合があるんじゃないか,といった学説上の理論のことです。表現の自由を問題にするなら,この問題として考えなくちゃいけません。が,今のところ,最高裁は正面から可罰的違法性の理論を認めていません。

で,住居侵入罪における実質的違法性の有無をどのように判断すればいいかというと,結局のところ,住居侵入罪が守っている法律上の利益,つまり住居侵入罪の保護法益との関係で考えなくちゃいけない。この点で,住居侵入罪における保護法益は「住居権」であって(判例),「私人の財産(権)」ではありません。んなもんで,財産権の侵害(財産罪)とかいった構成をすると,これまた的外れになってしまう。

要するに,結局のところ,可罰的違法性の理論の枠組みで住居権の侵害と表現の自由の関係を問題にする場合,「住居権者は表現の自由との関係でビラ配りによる立ち入りを受忍する義務があるのか」という問題になるのだと思います。軽微な侵入行為は,表現の自由に基づく行為と比べると,被害の程度も少ないから,可罰的違法性を欠くとも言えそうです。さて,どうなるのか。

被告人は「表現の自由に基づくビラ配りに伴う立ち入りを住居権者は受忍する義務があり,被告人には住居侵入罪の可罰的違法性がない」と主張することになるわけだけれども,ここには2つのハードルがあります。

ひとつは,可罰的違法性なんつもんをそもそも認めるべきなのか?という問題。もうひとつは,仮に可罰的違法性が認められるとしても,ビラ配りにあたって住居権者はこれを受忍しなくちゃいけないのか(ビラ配りは正当行為(刑法35条)なのか)という問題です。前者について,裁判所はそもそも正面きって可罰的違法性を認めていないし,後者についても,ここまで露骨な法律違反を,裁判所が正面きって不可罰(訴訟法的には無罪)とするのは難しいんじゃないだろうか。判決としては,妥当だったんじゃないかと思います。

もっとも,こゆのは手続的に見て恣意的な側面が見られるもんで,その点が指摘されるべきもんなんだとは思います。例えば,以前このサイトでも,うちに公明党のビラが配られていた話をしたんですけれど,あたしが警察を呼べば,彼らはこのビラ配りを取り締まってくれたんだろうか。ちゃんと起訴してくれたんだろうか。また,以前オウムの信者が他人の駐車場を横切っただけで別件逮捕されていたけれども(起訴されたかまでは知らない),これは捜査活動として妥当な措置だったんだろうか。

結局のところ,これは捜査活動の公平性に関する問題なわけで,つまるところ法律問題というよりは政治問題なんだと思います。そゆもんを棚上げにして法律問題を云々しても,あまり意味がない,つかまったく意味がない,と,あたしは思うんだけれど,どうなんでしょね。

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